羽生雅の『ホツマツタヱ』考~~神社と神代史の謎解き

『ホツマツタヱ』から明らかにする記紀と神社、歴史の真実

序 奇跡の書『ホツマツタヱ』

 日本古代史のバイブルである『古事記』や『日本書紀』を読んでいると、数々の矛盾に出合う。両書にかぎらず、真実の歴史は権力者たちの都合によって、その多くが闇に葬られ、もはや知り得なくなっている。

 

 ところが、微妙にゆがめられているとはいえ、『古事記』や『日本書紀』も、その内容のほとんどは史実に則したものであることに変わりはない。至る所に真実が見え隠れしている。

 

 よって、丹念に読み込んでいけばわかるように、重ねられた嘘はいずれ辻褄が合わなくなり、どこかで必ずボロが出ている。それともこのボロは、権力者の下で偽りの歴史を綴らざるをえなかった編者たちの良心か、あるいはプライドなのか……私には、これを読み解けるかいう、後世への挑戦とも受け止められた。

 

 その挑戦を受けて、史書の裏に隠されている真の歴史を暴くべく、現在残されている各史料の記述を整合させられないかと、数々の文献をあたり考察を繰り返してきたが、ようやくこの壮大な謎を解く鍵に出合えた。

 

 『ホツマツタヱ』である。昭和41年に発見された、驚愕の古代文書だ。

 

 この書をはじめて読んだときの驚きは表現しがたい。とにかく目から鱗であり、数々の矛盾が解消し、今までの疑問が解け、また疑問が解けたことによって生じる今後の疑問もすべて解けるだろう気がした。

 

 『ホツマツタヱ』は、第12代景行天皇の時代(紀元前後)に編纂された、全四十紋から成る文献である。『古事記』は第43代元明天皇(在位七〇七~七一五)に献上されたもの、『日本書紀』は第40代天武天皇(在位六七三~六八六)の発意によって編纂が始まり、元明の娘である第44代元正天皇(在位七一五~七二四)の時に完成を見たのだから、両書よりはるかに古い。漢字の伝来前なので、表記は「ヲシテ」と呼ばれる独特の古代文字である。よって、記紀と『ホツマツタヱ』の内容が一致する部分は、記紀が『ホツマツタヱ』を基にしているのは疑うべくもない。その内容も、記紀と同じく、ある程度物語化され、明らかにフィクションの部分もあるが、記紀よりも断然矛盾が少なく、これこそ真実を伝えていると確信できる。

 

 ではこれから、『ホツマツタヱ』を基に、真の日本古代史を繙いていこう。さすがに『ホツマツタヱ』といえども、古代史の全容を明らかにするものではないが、記紀をはじめとする他の文献を照合することによって、新たに浮かび上がってくる事実もある。すなわちこれは、創られた歴史――謎多き記紀の読み解きでもある。

 

 最後に断っておくが、私は専門の研究者ではないので、古今東西にかかわらず、この時代に関する他者の研究をまったくと言っていいほど勉強していない。よって、これから展開する説の中には、すでに提唱されている事柄もあるかもしれない。しかし、ここではあえてそれは無視させていただくことにする。他者の研究やその論説についてどうこう言えるほど、私自身が勉強していないからだ。

 

 したがって、これから述べることは、あくまでも史書と若干の参考文献から導き出した独自の結論である。しかし実際、『ホツマツタヱ』や記紀、その他の文献の内容に整合性を持たせるためにはこの解釈しかなく、それは他の方々にも十分同意していただけるものだと思っている。

 

 確固たる歴史的な証拠が現れないかぎり、正しいと証明されることはないかもしれない。だが同様に、この説を覆すだけの材料が出てこないかぎり、否定することもできないだろう。そして私は、これこそかぎりなく真実に近いと信じている。

 

 なお本編では、より現代人が理解しやすいように、できるかぎり漢字表記への変換を行っている。人物名の漢字は、漢文史料で使われているものの他、神社の祭神名で使われている漢字など、別の根拠により選択している場合もあるため、必ずしも一般的に知られている表記とは一致しないこともある。また、史料ごとに使用漢字が異なり、複数の表記例が見られる場合は、その名の意味や由来などが想起しやすいほうを、そうでなければ辞書に載っているなど、読者がその人物をイメージしやすいほうを採用、あるいは同じ理由で漢字を選択した。たとえば、神武天皇の和風諡号である「カムヤマトイワレビコ」は、『古事記』では「神倭伊波礼畏古」、『日本書紀』では「神日本磐余彦」と表されているが、カムヤマトは『記』の「神倭」を、イワレビコ『紀』の「磐余彦」を採用し、「神倭磐余彦」としたように、一つの名に異なる文献からの漢字を採用している場合もある。そして、『記』における「日子」や「畏古」など「ヒコ」や「ビコ」と読むものは「彦」に改め、「比売」や「畏売」など「ヒメ」や「ビメ」と読むものは「姫」あるいは「媛」に改めた。

 

 それでは、はじめるとしよう。